代表あいさつ

「大地の大学」は大学院レベルのフリースクールです。文字どおり、自由で無料(授業料なし)の研究および社会活動の実践団体です。固定したキャンパスはありませんが、メンバーの所属先や関連施設で原則として年2回の研究大会と、イベントやフィールドワークを随時開催しています。

モデルはメキシコ・オアハカ市にあるUniversidad de la Tierra(大地の大学)で、「教える─教えられる」という縦の関係ではなく、「協学(協力していっしょに学ぶ)」をモットーにしています。したがって、「大地の大学」には教育や教員という言葉はなく、メンバー全員(多くは大学の現役教員・元教員や現役学生・元学生)が互いに切磋琢磨する「学生」です。

オアハカ発の「大地の大学」は、同じオアハカの別の地区のほか、メキシコのプエブラやスペインのバレンシア、米国のカリフォルニアにも広がり、日本では当校が初めての「大地の大学」です。

私は10年ほど前、オアハカ「大地の大学」創設者で、脱開発論者として世界的に著名なGustavo Esteva(グスタボ・エステバ)氏を訪ねました。そして、イヴァン・イリッチとの交流に基づく彼の近代化批判と脱学校思想に触発を受け、その著作に接してきました。しかし、もっとも大きな影響を受けたのは、その生き方、研究者・人間としてのあり方でした。ビジネス経験もあり、大臣候補にもなった官僚・研究者でありながら、上意下達の開発政策に反対して下野し、市井の研究者・社会活動家としての道を歩んだからです。そして、3年前、私の定年退職前にオアハカを再訪し、日本にも「大地の大学」を創りたいと伝え、アドバイスをエステバ氏に求めたのです。彼の答えは「(創るのであれば)新しい知をめざせ」というものでした。

「大地の大学」日本がめざす「新しい知」とは何か。ここ数年そのことを考えながら、正式に発足する前の研究大会を重ねてきました。最初が拙宅のある熱海での合宿(2016年9月2・3日)でしたが、その後、龍谷大学社会科学研究所の研究資金を得ることができ、共通の研究テーマも「共生社会・共生経済」になり、2回目を龍谷大学大宮キャンパス(2017年2月5・6日)、3回目を筑波ふれあいの里(2017年10月7・8日)、4回目を龍谷大学瀬田キャンパス(2018年2月3・4日)、5回目が慶応大学三田キャンパス(2018年9月22・23日)、6回目は龍谷大学深草キャンパスで来年2月に開催し、共生社会に関する共著も出版することになっています。

「共生社会・共生経済」は今後も継続する重要な研究および実践課題ですが、「新しい知」という大きな枠組みで「大地の大学」日本がめざすべきなのは、「制度化された知(大学での学問)」と「地域という現場の知(ローカル・ノレッジ)」をITや人的なネットワークで架橋することではないかと思います。私の場合、具体的には、経済学や政治学、社会学、倫理学、哲学とフェアトレード(タウン)運動をつなぐことによって、公正な社会とは何か、コンビアルな(共に生きて愉しい)社会とは何か、そしてその実現のための方策を考えることになりますが、具体的なテーマ・問いは個々の「学生」が発見、設定することになるでしょう。

「大地の大学」の具体的なイメージがつかめない方は、本「大学」のメンバーでもある北野収氏の『南部メキシコの内発的発展とNGO─グローカル公共空間における学び・組織化・対抗運動』(勁草書房)を是非お読みいただければと思います。オアハカ「大地の大学」を創ったエステバ氏の経歴・思想のほか、同「大学」で行われている学びや実践について深く考察しています。

最後に、本「大学」は知と社会の変革をめざす同志を求めていますが、数を頼みにすることはしません。ただし、新しい知や実践を協同で創造し、コンビビアルな社会づくりを目的とする、志の高い方々の参加を広く呼びかけます。「入学」条件は研究大会での発表(研究計画や活動計画でもかまいません)です。現在のメンバーの関心領域・経歴については、このホームページの名簿・関連リンクやFacebookページをご覧いただければ幸いです。

2018年10月吉日
「大地の大学」代表 山本 純一